ブログ「相続の現場から」

自社株に対する総則6項適用事件(通称「東北薬局事件)国側敗訴

投稿日:2024年4月4日

令和6年1月18日(木)、東京地裁相続業界注目している裁判判決がありました。

 

「総則6項」、いわゆる“国税の伝家の宝刀”自社株相続評価に適用され、その是非が問われた裁判です。(通称「東北薬局事件」

 

結果はある程度読めていましたが、実際に判決が下されたことで、より総則6項の適用基準明確になりました。

 

事案概要は次の通りです。

 

①東北地方を地盤とする薬局チェーン店のオーナーが、生前にM&Aで会社を他社に譲渡しようと基本合意を締結したものの、譲渡する前に死亡してしまった。

②その後相続人が交渉を引き継ぎ、故人が生前締結していた基本合意書通りの価格(1株当たり約10万円)で会社を譲渡した。

③相続人は通達評価に基づき1株約8千円で相続税の申告納税を行ったところ、国税が「通達評価は著しく不適当であり特別な事情がある」と総則6項を適用させ、鑑定評価である1株当たり約8万円で評価すべきと更正処分を行った。

 

国税は、「1株当たり10万円の価値がある会社なのに8千円で申告するのはおかしい!生前10万円で合意していて、相続後にその通り10万円で売却できたのだから、相続時の時価は1株当たり10万円である。鑑定で8万円におまけしたのだから我慢せい!」といった感じでしょうか。

 

気持ちはよく分かります。

 

それに対し相続人は、「父が1株当たり10万円で合意していたと言っても、それはあくまで基本合意に過ぎず、実際に拘束力があった訳じゃない。相続後に交渉を再開し、結果的に父と同じ価格で売却することになっただけである。相続税は相続開始時の時価で計算し、その時価は通達で定めるルールになっているのだから何もおかしくない。そもそも会社の売買は相続対策とは一切関係がない。」反論しています。

 

東京地裁「令和4年4月19日の最高裁判決(通称「札幌事件」)による総則6項の適用解釈を引用し、①通達評価額と時価に大きな乖離があるだけでは特別な事情があるとは言えない、②一連の行為は相続税の租税回避目的とは認められないため特段の事情はなく総則6項の適用は違法」と、国税による更正処分取り消しました。

 

つまり、総則6項を適用すべきではない判断したのです。

 

令和4年4月19日最高裁判決が出るであれば、もしかしたら国税主張が通っていたかもしれませんが、本裁判令和4年4月19日最高裁判決ですから、令和4年4月19日最高裁判決で示された適用解釈に照らして考えれば結果予想がついていました。(100%の自信はありませんでしたが)

 

裁判に先立つ和2年7月8日仙台国税不服審判所裁決(非公開)は、令和4年4月19日最高裁判決よりもでしたから、「国税の処分(総則6項の適用)は適法である」と判断されていました。

 

令和6年2月12日(月)付の新聞に『相続節税に調査厳しく~国税当局、財産評価の「宝刀」駆使~最高裁判決が後押し』の記事がありました。

 

記事では、「国税が総則6項を使いやすくなったので安易な節税策に注意すべき」と書かれています。

 

その通り!

 

相続対策を講じる場合、慎重検討しましょう。

 

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