投稿日:2024年7月4日
和歌山県の資産家である野崎幸助さんが77歳の時に不審の死を遂げたいわゆる「紀州のドンファン」事件。死亡したのが平成30年5月24日ですから、もう6年以上経っているのですね。
この事件の容疑者として、元妻の須藤早貴被告が覚醒剤を摂取させて殺害したとして起訴されていますが、未だに裁判開始の見通しは立っていません。
さて、6月21日(金)に、野崎さんが作成したとされる自筆証書遺言を巡る裁判があり、和歌山地裁はこの遺言書を有効と認め、野崎さんの兄ら4人の訴えを斥けました。(記事はこちら)
この結果により、今後遺産がどうなるのか考えてみましょう。
今回問題となったのは、野崎さんが須藤被告と出会う前に書いたとされる自筆証書遺言書。そこには「個人の全財産を田辺市にキフする」と赤字で書かれていました。
兄ら4人は、筆跡は別人のものだとする「鑑定書」を和歌山地裁に提出し「これは野崎さんの自書ではない。無効である」と主張しました。
一方、田辺市は「野崎さんは生前に複数回にわたり、財産を市に寄付していた」とこれを真っ向から否定し「遺言は有効である」と主張しました。
田辺市としては、遺産を受け取る手続き費用として既に6700万円を支出しているため、今さら引くに引けない状態であったと思います。
和歌山地裁はこの遺言書を有効と判断し、兄ら4人の訴えを斥けました。
今後、13億円とも14億円とも言われる遺産の行方はどうなるのでしょうか?
野崎さんの相続人は妻(須藤被告)と兄らになります。
遺言がない場合の相続割合は「妻が4分の3、残り4分の1を兄らが均等に相続する」ことになります。
法的に有効な遺言があった場合、まず遺言に則り相続手続きを進めた上で、それに納得いかない相続人は遺産を取得した者に対し遺留分を請求することになります。
ところが、妻には遺留分がありますが、兄らには遺留分がありません。
つまり、今回遺言書が有効と判断されたため、兄らの相続権は消滅し、遺留分権も請求できないこととなったのです。
一方、妻(須藤被告)は全財産を取得した田辺市に対し、遺留分として遺産の2分の1を請求することができます。請求されたら田辺市は金銭で支払わなければいけません。
ここで問題となるのは、妻(須藤被告)にそんな権利があるのか?ということです。
夫を殺害した妻に相続権を認めてしまったら、夫を殺せば財産が入ってくることになってしまいます。
そこで、民法では夫を殺害した妻には相続権がないと定めています。このことを相続欠格と言います。
妻(須藤被告)が夫(野崎さん)を殺害したのか否かの裁判はこれからですので、どうなるかは全く分かりません。
今後、兄ら4人は控訴する可能性がありますので、そもそも遺言が有効か否かもまだ確定していません。
以上をまとめると次の通りとなります。
①遺言が有効かつ妻(須藤被告)が犯人の場合⇒田辺市が全額取得
②遺言が有効かつ妻(須藤被告)が犯人ではない場合⇒田辺市が2分の1、妻が2分の1(遺留分を請求したとして)
③遺言が無効かつ妻(須藤被告)が犯人の場合⇒野崎さんの兄らが相続
④遺言が無効かつ妻(須藤被告)が犯人ではない場合⇒妻が4分の3、野崎さんの兄らが4分の1
野崎さんの兄らは上記③を狙っていたのですね。
勉強になりますね。
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