ブログ「相続の現場から」

ネームバリューに騙されないように…

投稿日:2015年7月25日

先日、ある地主の方(以下Aさんと言います)から相続対策の相談を受けました。

 

※長くなりますので、時間のある方だけお読み下さい。

 

Aさんは超高齢、先祖代々の農家であり、郊外に広大な田畑を所有しています。

しかし、時代の流れと共に周辺が宅地として開発され、現在、Aさん所有地だけが開発されず、エアーポケットのようにポッカリ残っています。

相続対策が必要なことは自他共に認めるところであり、資産管理会社を設立したり、自社株の一部を孫に移転させたり、既にある程度の相続対策は実行済です。

また、Aさんも相続人であるお子様も、一般の方に比べると、かなり相続に対する知識レベルは高いように見受けられました。

 

Aさんは、相続人であるお子様2人と一緒に相談に来ました。

相談内容は、以下の通りです。

●大手銀行とハウスメーカーが、「相続対策として、個人で数億円借金し、田畑に賃貸物件を建設すべきだ」としきりに勧めてくる。

●大手税理士法人の「相続試算書」も持ってきた。

●皆が揃って賃貸物件建設を推奨してくるが、本当に建てた方が良いのか?

 

まず、大手税理士法人の「相続試算書」を確認しました。

30頁もある、本格的な「相続試算書」です。

作成している税理士法人は、この世界で仕事している人ならば一度は名前を聞いたことがある、有名な税理士法人です。

 

ん?何か変だな…と思って数字を確認すると、広大な土地なのに、単純に正面路線価に地積をかけただけの評価額になっています。

間口は?奥行きは?不整形地は?

まったく画地補正してないの???

 

住宅地図を見ると、相当敷地高低差がありそうに見えました。

Aさんに「所有地に崖とかありますか?」と聞いた所、「あります。小高く盛り上がっている土地です。結構高低差ありますよ。」とのこと。

大手税理士法人は一度も現地を見ることなく、「相続試算書」を出してきたそうです。

 

もう一度住宅地図を見て見ると、周辺は整然と戸建て住宅が立ち並ぶ住宅街です。

その地域の役所に問いあわせた所、「500㎡以上の土地を開発する場合、都市計画上の開発行為に該当する」ことが分かりました。

だったら広大地の適用あるでしょ?

しかも、利用区分や面積的に、相当美味しく評価減メリット取れそうな雰囲気です。

 

そもそもAさん所有の田畑は生産緑地なんだから、勝手に農業を「や~めた」と出来ないし、納税猶予の適用は検討していないの?

長期的な視野で、メリット/デメリットを比較検討したのかな?

不動産鑑定の話しはしたのかな?

 

つまり、構図としては、こんな感じです。

●ハウスメーカーは賃貸物件、それも出来る限り大きい建物を建てたい

●銀行はお金を貸したい、それも、Aさんであれば相当な資産家であり取りっぱぐれる心配が少ないので、出来るだけたくさん貸したい

●大手税理士法人はハウスメーカーや銀行から顧客の紹介を受けており、自分達にとって一番大事なのは定期的に案件を紹介してくれるハウスメーカーや銀行であり、常に彼らの方を向いた提案を心掛けている

 

ハウスメーカーや銀行は「商品」を売っている営利企業ですから、自分達が扱っている「商品」を一生懸命セールスするスタンスに間違いはありません。

但し、顧客は「そういう会社なんだ」という事実をしっかり受け止めた上で話を聞く必要があります

 

税理士だってボランティア団体じゃないんですから、ビジネスジャッジは大切です。

とは言え、士業として専業分野を持つプロなんですから、持っている「知識」と「経験」をフルに生かしてくれないと、何のための資格なんだと思ってしまいます。

 

大手税理士法人は、相続評価額が高ければ高い程Aさん一家の相続に対する不安が増す➡賃貸物件建設にフォローの風が吹く、の流れに沿った「相続試算書」を作成したとしか思えません。

もしそうじゃないなら、現地も確認せず、評価の特例も考慮せず、プロとして恥ずかしくないんでしょうか?

小さな文字のディスクレーマーで<注意書き>を記載すれば免責されると本気で思っているのでしょうか?

 

「相談は無料」と思っているエンドユーザーも悪いと思いますが、だったら事前にきちんと費用がかかる旨説明し、お互い納得してから費用に見合った条件下で数字を出すべきじゃないでしょうか?

 

誰もが知っている、超有名なハウスメーカー、銀行、大手税理士法人がタッグを組んでこういうことをするから、一般の方は何を信じて良いのか分からなくなってしまうんです。

 

ネームバリューや知名度、資格、企業規模等で物事を判断するのは大変危険です。

かと言って、無名だったら安心かと言うと、別の心配が出てきます。

う~ん、難しい…。

 

これだけ「相続対策」がブームになり、猫も杓子も「相続」「相続」と言っていると、一般の方は麻痺してしまいますよね。

 

とりあえず、利害関係のない複数の先に、しっかりお金を払って相談してみたり、別の人にセカンドオピニオンをお願いしたりして、自己防衛するよう心掛けましょう。

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