ブログ「相続の現場から」

相続の現場から「<書かされた遺言>かもね」

投稿日:2016年3月17日

先日、とある公証役場に行った時のこと。

僕は公正証書遺言の証人だったのですが、時間より少し早く着いたため、公証役場の待合で遺言者の到着を待つことにしました。

 

公証役場に行ったことがある人なら分かると思いますが、公証役場の個室って完全に区切られた部屋になっていないことが多く、上が空いていたり、パーティションで区切られているだけだったり、つい立てだったりします。

そこで公正証書を作成するのですから、中の会話はまる聞こえ、情報ダダ漏れです。

(公証人の前のパイプ椅子に皆で座って公正証書を作成したこともあります。)

 

今回の公証役場も上が開いている、半個室タイプ。

しかも待合とは薄い簡易壁を挟んでいるだけなので、中の会話が良く聞こえました。

 

どうやら、中では公正証書遺言を作成している様子。

会話の中身から想像すると、M信託銀行(あ、大手はどこもM信託だ…)の遺言信託、遺言者は高齢の夫婦(つまり、夫も妻もそれぞれ遺言を作成)のようです。

 

公証人「アパートは〇〇さんでよろしいですか?」

遺言者(夫)「あ~、なんですの?」

公証人「ですから、アパートは〇〇さんにあげるのでいいのかな?」

遺言者(夫)「あ~、アパート。今何時になった?」

公証人「2時を少し過ぎた時間です」

遺言者「じゃあ、飯食わんと」

公証人「すぐ終わりますから、終わったら食べて下さい」

遺言者(夫)「そうか、そんで何やるの?」

公証人「今遺言書を作成してます、え~と、誰に何をあげるか決める話しです」

遺言者(夫)「あ~、そうか、じゃあ始めてくれ」

公証人「え~と、どこまで話したかな…」

 

こんな感じで、延々壊れたレコード状態の会話が続きました。

面白くて椅子から落ちるかと思った。

 

(善し悪しは別にして)何とか夫の遺言書作成が終わり、そのまま続いて妻の遺言書作成に移った様子です。

妻の声は、随分ハリがあって、夫より若いように感じました。

ハキハキ、明確、会話もポンポン、あっという間に遺言完成。

妻の所要時間10分かからず。

 

部屋から出てきた一行を見たら、やはり、両脇を抱えられ支えなしでは歩けない高齢の夫と、(恐らく)後妻、それを取り巻くM信託銀行の財務コンサルタント(通称・財コン)。

待合で待機していたスーツ姿の二人(支店の役席者と担当者?)とも合流し、「お疲れ様でした」と互いを労っています。

信託銀行関係者は総勢4名もいたことになります(証人2名+担当2名)。

相当な資産家VIPなんでしょうね。

 

遺言書が交付される間、またまた爆笑会話が続きました。

銀行員「お疲れ様でした」

遺言者(夫)「何が?」

銀行員「いや、遺言作成するの、大変だったんじゃないかと思って(大変だったのは公証人でしょ!と突っ込みたくなるのを我慢)

遺言者(夫)「遺言ってなんや?」

銀行員「今作成したやつです」

遺言者(夫)「ほうか、今何時?」

銀行員「3時を回った所です」

遺言者(夫)「じゃあ、飯食わんと」

妻「さっき食べたばかりでしょ」

遺言者(夫)「そうか?で、今何時や?」

銀行員「3時を少し回りました」

遺言者(夫)「じゃあ、飯食うか?」

全員「…」

 

この遺言書、<書かされた(作らされた)遺言>ではないでしょうか?

しかし、公正証書で作成している以上、『この遺言書に文句を言う=国を相手に戦う』国家賠償になりますから、戦おうと思っても、ほぼ勝ち目はありません

 

●自分に有利な遺言を作成したい後妻

●目先の目標と収益を達成し、かつ末永く資産家を囲い込みたい信託銀行

●信託銀行とのパイプを大事にしている公証役場

の利害が一致し、判断能力が衰えたおじいちゃんを担ぎ出したのかもしれません。

 

色々と考えさせられました。

 

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