投稿日:2017年7月4日
法人が契約した低解約返戻金タイプの生命保険の契約者たる地位を個人が売買により取得し、その個人が一時所得の計算上控除できる金額の範囲が争われた事件で、平成29年4月に札幌高裁は「<その収入を得るために支出した金額>に該当するためには、収入を得た個人自らが負担して支出したものと言える場合でなければならない」と下しました。
これは、平成24年1月に最高裁が判示した「一時所得の計算上控除できる<その収入を得るために支出した金額>とは、収入を得た個人自らが負担して支出したものに限る」を踏襲したものとなっています。
もう少し札幌の事件を詳しく見てみましょう。
本件は、医療法人が契約した低解約返戻金タイプの生命保険金の契約者たる地位を、同医療法人の理事長(個人)が(安い)解約返戻金相当額による金銭を支払った上で承継し、同理事長が1年分の保険料を支払った後その保険契約を解約し(多額の)解約返戻金を受領した事件です。
法人から個人へのいわゆる“名義変更プラン(名変プラン)”と呼ばれるスキームですね。
理事長サイドは「医療法人が支払った保険料も理事長の一時所得の計算上控除できる」と主張していましたが、認められませんでした。
「自分で払っていない保険料も控除できる」と言う発想自体がおかしな話だと思いますが、法の不備・盲点を突き、一部のとがった営業の面々が会社オーナーや医療法人相手に売りまくっていたスキームです。
札幌の事件で、医療法人は支払った保険料の半分を名義変更前に「保険料」として損金処理し、「保険積立金」として計上していた残りの半分も名義変更後に雑損失として損金処理しています。
つまり、理事長サイドの主張が通ると、法人税で一度控除されている保険料が、名義変更後に理事長個人の一時所得計算上もう一度控除できると言う<二重控除>の問題が生じてしまいます。
尚、理事長サイドは「平成24年1月の最高裁は<養老保険、満期保険金>あり、今回は<名義変更による契約者の地位の移転、途中解約>のため、事案を異にする」と主張していましたが、一蹴されています。
一番重要なのは
●名義変更に対する大義名分(なぜその行為が必要なのか)
●名義変更の「経済合理性」
であることは、言うまでもありません。
札幌の事件は、名義変更後に理事長が受領した多額の解約返戻金の額が、個人が受ける経済的利益の金額として妥当なのかどうか(合理的と言えるか否か)については争われませんでした。
「何度もやっているが、一度も問題視されたことはない」
「税務調査で指摘されたことはない」
と言う方がいますが、それはたまたまです。
単に見過ごされただけかもしれませんし、調査官の目が節穴だったのかもしれませんし、別にもっと注力すべき指摘事項があったのかもしれませんし、忙しかっただけかもしれません。
税務調査等で指摘を受け、審判所や裁判所で争い、そこで議論がなされ、その結果「問題なし」とお墨付きを得て初めて大丈夫と言えます。
「今まで何も言われなかったから大丈夫」なんて思わないように。
ただの偶然です。
平成30年から支払調書がグレードアップしますので、グレーな取引は減るかもしれませんね。
過去の保険料支払い状況等を含め丸裸になりますから。
尚、札幌の事件は最高裁へ上告されています。
最終的に確定している訳ではありませんのでご注意下さい。
2022.5.16
2024.7.4
2020.2.4
2024.12.4
2015.12.14
2024.12.9
2017.4.23
2020.1.4
2020.7.29
2024.10.7
© 2014-2024 YOSHIZAWA INHERITANCE OFFICE