投稿日:2019年9月9日
相続税対策として銀行から多額の借入を行い賃貸不動産を2棟購入した事案で、令和元年8月27日、東京地裁は納税者の請求を棄却しました。
納税者は「国税庁が定めた財産評価基本通達の通りに相続税評価額を算出しており、アレコレ言われる筋合いはない。」と主張していました。
つまり、「取得した価格が高かろうが/安かろうが、国税庁長官が作ったルールに則り、相続発生日の相続税評価額で申告して何が悪いのか!国の言う通りにしただけじゃないか!財産評価基本通達に則った相続税評価額の通りでいいはずだ!」と言うことです。
一方国税側は、「本事案は<特別な事情>があるので、財産評価基本通達第1章(総則)第6項(この通達の定めにより難い場合の評価)『この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。』の発動が認められる。よって、時価ベースで申告しなさい。」と主張していました。
簡単に経緯をまとめると、次のようになります。
平成20年8月、二男の長男と養子縁組
平成21年1月、甲不動産を約837百万円で購入(銀行から約75%を借入)
平成21年12月、乙不動産を約550百万円で購入(銀行や妻子から約80%を借入)
平成24年6月、相続発生
⇒ 養子が本件不動産及び債務の全部を相続したが、債務控除及び小規模宅地等の特例適用により相続税ゼロ!
平成25年3月、養子が乙不動産を約515百万円で売却
平成28年4月、税務署から更正処分を受ける
裁判所の判断の中で重要なことをピックアップすると、次の通りです。
①財産評価基本通達に則った相続税評価額は、取得価額や不動産鑑定評価額の4分の1と大きく乖離している
②被相続人が90歳の時に対策を計画し、91歳の時に銀行から多額の借り入れ(約10億円)を行い不動産を購入している
③借金による不動産購入がなければ(当初の)課税価格は6億円を超えていた
④銀行の貸出稟議書には、相続税の負担を減じるために行うことが記載されている
⑤よって、本事案には<特別な事情>が存在するので、不動産鑑定評価額(時価)で評価すべし
本事案から学ぶポイントをいくつかピックアップすると、次の通りになります。
①国税が定めたルールを守っても、伝家の宝刀(総則6項)が抜かれる場合がある
②伝家の宝刀が抜かれるかどうかの判断基準はブラックボックスであり、ガイドラインは不明
③相続対策と称した行き過ぎた節税は租税回避に近い行為とみなされてしまう
④銀行の稟議書等も全部確認される
相続対策のために
「アパートを建てましょう」
「マンションを購入しましょう」
「遊休地を有効活用しましょう」
なんて、ハウスメーカーや不動産会社、銀行等が毎日当たり前のように提案している普通の話です。
大丈夫?
☑相続が発生する約3年前に取得しているけど、5年前だったらセーフだったの?それとも10年位前じゃないと駄目なの?
☑相続税評価額が時価の4分の1じゃなくて、2分の1ならセーフ?それとも3分の2位ないと駄目なの?
☑相続税ゼロじゃなくて、少しでも納税していたらセーフ?それともたくさん納税しないと駄目?
☑「たくさん」って、いくら位?
☑そもそも「相続税の負担軽減が駄目」と言うなら、皆が行っている生前贈与やなんてほとんどアウトなんじゃないの?
悩みは尽きない訳です…。
本事案が控訴されているのか、これを書いている時点では不明ですが、超重要な事案としてしっかり押さえておきましょう。
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