投稿日:2019年2月1日
相続対策として取り組んだ信託契約について、平成30年9月12日、東京地裁は
「遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであり無効」
「信託契約による財産の移転は形式的な所有権移転に過ぎないため、受益権を遺留分減殺請求の対象とすべき」
と判断しました。
上告されている様子のため、まだ確定した判決ではありませんが、ここ数年業界で流行している「民事信託」に対する警笛として、注目が集まっています。
<概要及び事実>
●本事案は「跡継ぎ遺贈型受益者連続型信託(信託法91条)」である。
●信託財産は、不動産(自宅、賃貸物件2棟、土地、使用貸借中の倉庫、山林)と金300万円である。
●委託者=父、受託者=二男、受益者=当初(当初は父、第1順位は長男1/6+二女1/6+二男4/6、第2順位は二男の子)
(つまり、不動産売却や賃料等の収益は、父が元気な時は父が全額受け取り、父死亡後は「長男1/6、二女1/6、二男4/6」の割合で受け取り、長男・二女・二男が死亡した後は「二男の子」が受け取る、として設定されている。)
●その他、信託契約の4日前に「全財産の1/3を二女に、同2/3を二男にそれぞれ贈与する」旨の死因贈与契約を締結している。
構図としては、「父が二男に後を継いでもらいたいと思ったか」、或いは「二男が父に取り入ったか」かな?
(後述しますが、相続発生後に億単位の土地を売却していますので)間に入った不動産系相続コンサルが絵を描いた可能性もあるかもしれませんね。
真相は不明ですが、長男や二女からしたら、将来的に自分達の子(父から見たら孫)には何も財産が渡らない訳で、ただでさえ相続する財産が少ないのですから「やってられない!」となったでしょうね。
<争点>
●父死亡後、長男(原告)が二男(被告)に対し「信託契約と死因贈与契約により遺留分を侵害された」として遺留分減殺請求権を行使した。
●長男は「本件信託契約は、遺留分減殺請求権を不当に免れるものであり公序良俗に反して無効」と主張している。
<東京地裁の判断>
●二男は自宅を売却する意思なく、また土地は相続税納付のため売却済であり、使用貸借中の倉庫や山林から得られる収益もなく、実質的に長男が得られるメリットは賃貸物件からの収益の1/6に過ぎず、これら不動産を信託の対象としたの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解される。
●よって、賃貸物件以外の不動産を信託財産に含めた部分は遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したもので、公序良俗に反して無効である。
●自宅、使用貸借中の倉庫、山林の所有権移転登記及び信託登記の抹消手続きと遺留分減殺を原因とした持分一部移転登記手続きを被告二男へ命じた。
(長男が経済的利益を享受できる賃貸物件2棟と相続税納付のため売却した土地、金300万円に関する部分は有効と判断している。)
●信託契約による財産の移転は信託目的達成のための形式的な所有権移転に過ぎないため、実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺の対象とすべき。
信託法が改正され民事信託の幅は広がって10年強、これからが本番だと思います。
取り扱いや根拠、考え方、手続き等を巡り、色々と出てくるでしょう。
特に、永遠のテーマである「法律と契約、どちらが上か」について、信託推進派の人達は「契約優先」と言っていますし、相続業界の人達は「民法命」と言っています。
この辺り、現場が混乱しないように早く<白/黒>つけて欲しいですね。
じゃないと困るのはすべてエンドユーザーたる個人ですので…。
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